雪氷ネットワークの今年度の雪氷教育の事業として2024年8月10日13:30~16:30、札幌エルプラザ(男女共同参画センター)4階中研修室で開催された「雪氷の世界へのおさそい」について報告します。
講 演
講演開始に先立ち、司会者の高橋修平氏から2題の講演を設定した趣旨と講師の紹介の説明があった。
講演1は、雪氷物理学の研究者の油川英明氏による「雪と氷のふしぎ」という演題である。水の固体である氷が他の物質では見られない特異な物理的性質を持つこと、さらに雪の結晶の生成と形状について、スライドを使った解説があった。
後日、江別市からこの講演に参加したSさんから、「雪の結晶には裏と表があることなど常識を覆す知見が非常に面白かった」という感想をいただいた。
講演2の「雪氷と防災の話」の講師石井吉之氏は、2021年まで北大低温研で融雪災害、水災害に取り組んできた研究者。「天災は忘れた頃に来る(きたる)」という名言が寺田寅彦により発せられたという中谷宇吉郎の説を紹介し、寺田寅彦の随筆などを調べても文言上はそのような裏付けがなかったという疑問があるものの、この警句は関東大震災の起こった9月1日、自然災害への備えのメッセージとして毎年呼び起こされているという経緯が述べられた。
地震のような自然災害に対して雪害は、文明化がもたらす地球温暖化や大規模開発による保水力の低下などの人為的要因も複合された災害である。この講演で紹介された融雪期の3月に発生した2つの災害から融雪災害が今後増加する危険性と私たちの注意すべき点が呼び覚まされた。
写真1 司会の高橋修平氏から講演の趣旨の説明と講師の紹介
写真2 「雪と氷のふしぎ」講師 油川英明氏
写真3 「雪氷と防災の話」講師 石井吉之氏
雪氷俳句
未だ続く列島猛暑日地球病む 雪鬼
2011年9月26日に仙台で日本雪氷学会が開催された時、同年9月6日に俳句愛好の会員へ「雪氷句会」への参加案内に添えられた石本敬志氏(当時日本気象協会北海道支社)の句である。13年後の今夏、日本列島全体に連日繰り返される「こまめに水分を摂り、不要な外出を控えてください」の呼びかけによる熱中症発生の危険や線状降水帯における水害の報道はいっそう激しくなり、札幌においても常態化してしまった。
雪氷学会ではなだれ、降雪・着氷雪防止、吹雪による遭難、視程障害、交通障害などの雪をマイナス要因として克雪の研究とともに、利雪、親雪の分野の研究に加えて「雪形」、「雪や氷の造形」、「雪氷俳句」など生活文化を豊かにする素材として雪氷を嗜む集いが開催されているのは、筆者が長年所属してきた体育学会や体力医学会には見られない自然への畏敬の心がある。
ホワイトボード上に紹介された石本氏の雪氷俳句の中で、参加者にもっとも共感をよぶ句は、
降る雪の音聞きたくて立ち止まる 雪鬼
であった。雨、あられ、みぞれなど湿雪の音は誰でもはっきりと感受できるのに対して、「音もなく降る」と表現されている乾雪から、天からのかすかなささやきを感じ取る能力が低下していないか、自省しながら降雪が待ち遠しい気持ちに誘われた。
実 験
実験のテーマを「動いて学ぶ人力エネルギー」としたのは、積雪地住民が冬季に震災、暴風雪の災害に襲われた時、人命を救助し、生活を確保する最も重要なエネルギー源が住民同士の自助、共助による人力エネルギーであることを体験しながら学んでいただきたいという意図がある。
実験のブースは、高橋修平氏による鉱物標本の展示と水晶の結晶のプレゼント、内山良朗氏による発電床、ぶんぶんゴマ発電、須田力による発電うちわと人力発電キットのプレゼントの3か所であった。いずれも趣向を凝らした手づくりの展示であったが、子どもたちの参加が予想外に少なかったのは残念であった。
たまたま岩手県から札幌の実家に帰省した一家の子どもたちが大はしゃぎで楽しんでいた。この展示に刺激を受けた子どもたちは、親に「青少年科学館に行きたい」と言い出し、翌日に一家そろって出かけたということであった。「人力発電キットは岩手に帰ってから仲間たちに実演します」というので、おともだちが欲しいといったら送ってあげるよ、と伝えておいた。
写真4 子どもたちに鉱物の標本を
説明する高橋修平氏
写真5 内山良朗氏による発電床(下)と
ぶんぶんゴマ廻し(左)実験
イベントは、雪氷にかかわるテーマについて講演(学ぶ)、雪氷俳句(詠む)、実験(験す)という重複課題で科学に親しんでいただこうという意図で開催されたが、予想外に参加者が少なく、企画、準備のスケジュール、PR,当日の進行すべてにおいて反省点だらけであったことをあらためてお詫び申し上げます。
イベント風景1 須田さん、内田さんと懇談
イベント風景2 鉱物標本の展示コーナ
● 次ページに開催案内と当日のチラシがあります。