はじめに
視程と視界を題材に本文を書いていて思いついたのが表題の謎々です、解りますか?考えてみてください。土木試験所(現、寒地土木研究所)に入ってから始めたのは「吹雪と視程障害」の研究です。視程という語は気象用語で、肉眼で物体が確認できる最大の距離のことと定義されています。しかし視界と視界不良という語がいつのまにか視程、視程障害とほぼ同じ意味で新聞やテレビ等では使われています。フリー百科事典で検索すると、
「視界と視界不良は検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分・・・」(2025年3月14日閲覧)
とされています。言葉は時代によって変化しますので、用語としてはまだ公認されていないと言う事でしょうか。少し前にパソコンを打ちながら気付いたことですが、視界のつもりで「しかい」と打つと、変換のお勧め順位は「視界」より「歯科医」や「視界不良」が先になります。仮にパソコンのお勧め順位を使用頻度や認知度の指標になるとして不等号で表すと、視程>指定、指定障害>視程障害になりました。視程は視界より厳密な、そして視界には視程よりソフトで身近な音の響きを感じます。海と空には視程でも、より身近な道路には視界のほうが合うように思いました。
この60年の間、視程から始まって視界そして最近はホワイトアウトとの付き合いもでき、この三つの単語を中心に置きながら思いつくままの事を書きたいと思います。
冬道ドライブでホワイトアウトを初体験
60年前、北大理学部孫野教室では石狩平野に雪を降らす雪雲の中でどのような雪結晶が生まれ成長し積もるかまでの降雪機構を研究していました。雲の中の気象はラジオゾンデ、小樽の祝津からスノークリスタル・ゾンデを揚げ、雲の中で捕えた雪の結晶はその場でレプリカにして保存していました。そのほかに手稲山山頂にあった北大雲物理観測所や石狩にも観測点があり研究室を挙げての大きな研究プロジェクトでした。
そのプロジェクトに加わるには戦力外の学部3年目学生でした。ところが思いがけなく実験見学を兼ねた雑用係にしてもらえることになりました。
まだ自家用車は珍しい頃であったと思いますが、孫野先生のピンクのパブリカ(800cc)の助手席に乗せられ国道231号を快調に石狩に向かっていました。茨戸を過ぎた辺りで雪が降り始め風も出てきたと思った途端に、目の前が真っ白になり車が止まってしまいました。運転も知らず冬の遠出ドライブも初めての私が体験した初交通事故ですが、人は無事で車も雪をスコップで除くだけで無傷だったこともあり、その時は、冬はこんなことで交通事故になるのかと驚いていただけだったと思います。上下2車線の交通量の少ない単独事故で人も車も無事でした。今ならホワイトアウトでしょうが、その時は目の前が一瞬烈しく真っ白な視程障害になったとしか表現できませんでした。しかし、目の前が白く何も見えなくなること自体は珍しくもなく、スキーや冬の山では良くあることと軽く思っただけでした。
それから30年以上経った1990年半ばになって、アメリカの新聞社のウエブ記事に‘whiteout’の語を見つけました。吹雪や大雪によって交通に事故や車の立ち往生が多かった年のニュースです。そこでは雪で事故や渋停滞をもたらす視程障害(視界不良)をホワイトアウトと呼んでいるようした。それは意味(現象)が違うだろうとは思いましたが、英語のこともあってかあまり違和感はありませんでした。以前にこのニュースレターでも紹介しましたが、1940年代前半に北極で観測調査され辞典にも載っている(元祖)ホワイトアウトは、薄い層雲と地表の雪が太陽光を散乱することで視界が白一色になる現象です。条件がそろえば吹雪や降雪がなくても発生します。
それから更に30年経った今は、日本でもホワイトアウトを交通に著しく障害になる視程障害や視界不良と同じ意味でマスコミを中心に普通に使われています。文字通りの視程0mを知ろうと苦闘したこともあったので、ホワイトアウトだと投稿された写真を見ると、「そんなの只の吹雪だろう」「簡単にホワイトアウトと言うなよ」と思うこともあります。
あとがき
ここまで読んで表題の「視程は良いのに、視界が悪いのって、なぁ〜んだ?」という謎々の答えは分かったでしょうか?まだの人にはヒントを上げます、それはホワイトアウトです。ついでと言っては何ですが謎々というと私には真っ先に思い出す謎々があります。小学5年の授業の時間です。1学年から持ち上がりの女の先生が「知ってる人はいませんか」と訊きましたら、すぐ前の席の男子生徒が勢いよく手を挙げ答えた謎々のことです。それは「すすき(秋の七草)が上がると、お団子が落ちるの、なぁ〜んだ?」というものです。誰も答えられず、答えが明かされた途端に先生は金歯を光らせ吹き出し教室は大騒ぎでした。今の小学生に答えは見当もつかないのではないでしょうか。住んでいた地方都市では、札幌もそうだったと思いますが、馬車や馬橇で荷物を運んでいました。家は町の中心部にありましたが、馬の落とし物は畑の良い肥やしになると言って競うように拾っていました。そのためか春の雪解けの頃も馬糞が風で舞うことはなかったように思います。
この謎々は今では大人でも、答えを明かされても直ぐは解らない難問ではないかと思います。答えは馬が勢いよくススキのような穂先の尻尾を振り上げて、湯気ほかほかの黄色く丸い馬糞のお団子を落としているという、馬が身近に見られた頃の懐かしい情景です。
何年も忘れられないこの傑作な謎々は今では同級生のオリジナルとは考えられませんが、ウエブで調べてみてもまだルーツは不明です。誰か知っていたら教えて下さい。
年齢を重ねボケを自認している昨今です。認知症予防を兼ねて少しでも気力と集中力を持続したいとの思いでこのニュースレターを書かせてもらいました。能力低下や物忘れに加えパソコンソフトの更新トラブルもあり、短い文章ですが書き終えるまでに思いの外時間を要しました。石井理事には何度も励まされたことを感謝しています。
実は本文はこれで完結でありません「視程、視界とホワイトアウト」には続きがあります。ご期待くださいと言う自信はありませんが、自分のために書き続けるつもりです。最後に一つ報告ですが、書くこととパソコン・トラブル解決に時間を費やしたのは無駄ではなかったようです。少なくても無気力状態は脱しました。
写真の説明:ドライバーの目の高さ程の高さの雪堤が路側にあり、風速数メートルの風が吹くと地表10cmの高さに雪粒が跳ぶ低い地吹雪になります。低い地吹雪が雪堤を跳んでいた時の写真です。遠くの山々は良く見え視程は良好ですが雪堤の高さより道路は全く見えないホワイトアウト状態です。路側にスノーポールが設置されていなかった古い時代に撮られた写真です。
【参考記事】ホワイトアウトとは何か(竹内政夫)