「紋別わくわく科学教室」に参加して

須田 力

はじめに

 筆者は、雪氷ネットワークの教育事業として「移動健康・スポーツ科学館」という出前方式のイベントを開催させていただいている。昨年秋、雪氷ネットワークの会員で、2011年から2024年3月まで紋別の「北海道立オホーツク流氷科学センター」のセンター長を務められた高橋修平氏から毎年同センターで開催されている「紋別わくわく科学教室」への出展を勧めていただいた。「渡りに船」で、主催者の同センターでこのイベントを担当されている桑原尚司氏から連絡、アドバイスをいただきながら参加計画を立て、今年度の雪氷ネットワークの理事会、総会で承認を受け出展する機会をいただいた。
 紋別は、30℃を超す札幌よりも気温が常に5℃以上も低く、暑熱の時期にこのような知的イベント開催するには最適の地である。探求心を共有する出展者と地域の人たちの間で交錯する科学の不思議さと面白さのハーモニーに浮かれながらこのイベントから受けたインパクトを、雪氷関係者や雪氷に興味をもつ方々に伝えたい。

1.北海道立オホーツク流氷科学センター(GIZA)について

写真1 「北海道立オホーツク流氷科学センター」は、流氷や海洋に関する知識をわかりやすく学ぶ施設として1991年設立された世界にただ一つの流氷をテーマにした科学館である。初代所長は、木下誠一氏(北海道大学名誉教授)。高橋修平氏(北見工業大学名誉教授)は、2014年から2024年3月まで4代目の所長を務め、本年4月から大塚夏彦氏(北海道大学北極域研究センター特任教授)が5代目センター長である。

 この施設は、-20℃の厳寒体験室、日本でも珍しい傾斜型全天候ドームでのアストロビジョン、海氷成長模型、オホーツク海ジオラマ、海の妖精クリオネ展示、流氷観測船ガリンコ号の模型など海洋の自然を学ぶ数々の施設・設備を備えている(文献1)。雪氷科学に興味のある人は必ず訪れるべき施設であると感じた。

 筆者は、1986年から毎年2月に紋別市で開催されている「北方圏国際シンポジウム」に過去2回参加し、全国の雪氷研究者達と北方圏の国際研究者達が集う国際シンポジウムとしては格安の参加料で交流できる意義と、それを支えているボランティアの紋別市民の暖かいもてなしに心打たれているが、夏季の紋別訪問は今回が初めてであった。今回のイベントは、出展者に対して前日のホテル(紋別セントラルホテル)の宿泊費は無料、旅費補助として5,000円、出展のための材料費3,000円以内(領収書と引き換え)を主催者側が負担するという破格の厚遇であった。

2. 紋別わくわく科学教室

 今年の出展数は29で、1,471名の驚異的な参加者数という凄い盛り上がりとなった。出展者は、オホーツク管内の中学、高校、大学、科学教育ボランティアが中心で、管外からは、北海道教育大学釧路校、札幌から雪氷学会の平松和彦氏による「いろいろな形のブーメランを作って飛ばしてみよう」、北海道大学低温研の的場澄人氏とお二人の大学院生による「雪と氷の不思議実験」、雪氷ネットワークの筆者による「人力エネルギーを見る、見せる)の3題であった。
 自分は、この熱気あふれる雰囲気にすっかり呑まれてしまい、自分のブースも含めて画像は一枚も記録することもなく終わってしまうなど反省だらけの参加であった。本稿の写真は、すべて高橋様から提供いただいたものである。

 

写真2 会場の一部、講堂の風景。各ブースともパネル板1、テーブル1、椅子2脚が原則。札幌から参加した須田某のブース(写真正面)では、ホワートボード1、テーブル2、椅子4脚、占有面積が他の2倍という贅沢過ぎる出展であった。勝手が分からずとはいえ、気負って多量の展示物を持ち込んだために、周りの人たちの顰蹙を買ったのではないかと推察する。

写真3 「人力エネルギーを見る、見せる」のブース。
「ハイタッチ発電で交流」: ホワイトボード上の地図にLEDを装着したマグネットを2個置き、出展者の手の上のタッチ板に参加者がハイタッチすると、出展者の出身地(札幌)と地元の参加者(紋別)の位置におかれた2個のLEDが一瞬点滅する。ハイタッチの運動エネルギーが圧電素子で交流の電気エネルギーに変換され、2個のLEDの点滅で初めて会った二人に心の交流が発生する仕組み。
「発電うちわ」: うちわに貼り付けられた圧電素子が扇ぐ動作で変形するたびに運動エネルギーが電気エネルギーに変換され2個のLEDが点滅する。うちわからのケーブルを通してパネル上の2点、例えばJAXA EPOCのホームページの海氷密接度の画像から2個のLEDの点滅から2月と5月の流氷の分布を説明する(写真下)。人力などの運動エネルギーが電気エネルギー→光エネルギーへの変換で終わるのではなく、2個の微弱なLEDの光でも何かの学習のツールとして生かせれば、という意図がある。


ハイタッチで発電

    発電うちわとリード線、LEDが置
    かれたホワイトボード上のパネル

写真4 「隕石割り」
イベントの最後は、広場での「隕石割り」(写真4)。高橋前センター長による説明の後、隕石を割ったかけらを300人以上の子どもたちが宇宙への夢を育む大切な宝物として持ち帰るかけがえのないおみやげとなった。


「隕石割り」

3.科学体験に参加する機会のない子へのサポートを

 2020年10月に全国の小学1年生~6年生の子どもがいる世帯の保護者WEB調査(有効回答数2097件)を行った公益財団法人「チャンス・フォー・チルドレン」によると、(1)直近1年間で学校外の体験活動(スポーツ、文化芸術活動、自然体験、文化的体験)がない子どもの割合は、世帯収入300万未満の家庭の子どもは、29.9%で、300~599万の20.2%の1.48倍、600万以上の家庭の子どもの11.3%の2.6倍、(2)直近1年間で学校外の体験活動がない子どもの割合は、世帯年収300万未満でも、保護者が小学生の頃に体験なしの家庭の58.1%に対し、体験ありの家庭は17.4%と1/3以下であった。(3)保護者の最終学歴が高い家庭ほど、保護者自身が小学生の頃に学校外の体験活動を何もしていなかった割合が低い傾向にある。などの特徴が指摘されている(文献2)。

 

写真5「もんべつわくわく科学教室」を伝える北海民友新聞(2024年7月16日)

 このような不利を克服ための取り組みとして、主催者の流氷科学センター、地域の大学、高校、科学ボランティアに人たちによるこのイベントの果たしている意義とかけがえのない役割を多くの人たちに感じ取っていただきたい。上述の「チャンス・フォー・チルドレン」は、必要な施策として親の経済的な不利、大都市から離れている地理的不利などを軽減させるための送迎、福祉との連携、体験の担い手を支えるための基盤整備などを提案している。
 地図を広げて宗谷から斜里までのオホーツク海の海岸線の長さ、公共交通機関による各地域間移動に要する時間と地域の利用者の経済的な負担を検索すると、利便な札幌市に住んでいるわれわれこそ、この課題を強く意識しなければならないと思う。

おわりに

 今回のイベントのあまりの素晴らしさに魅了されてしまい、初めての参加とはいえ勝手が分からず準備、後片付けを始め多量の出展物の持ち込みなどでご迷惑をかけてしまった。再び参加する機会があれば、テーブル1個、椅子2脚で自分がどんな出展ができるか挑戦したい。
 高橋修平氏とともに大塚夏彦センター長以下「流氷科学センター」の皆様には大変お世話になりました。この場を借りてお詫びとお礼を申し上げます。また、北大低温研の的場澄人先生には、私のブースに北海道大学環境科学院の大学院生、西野沙織氏と桐生紗希人氏の気鋭の助っ人を派遣していただき、大変助かりました。有難うございました。

(注)下記のURLで高橋修平氏が撮影した「紋別わくわく科学教室」の写真が50枚ほど見ることができます。
https://drive.google.com/drive/folders/1wMOAvtB1HzPjbvVBQC1vSDXBkROpCxxQ?usp=sharing

参考文献
1) 北海道立オホーツク流氷科学センター、https://giza-ryuhyo.com/
2) 公益財団法人チャンス・フォー・チルドレン「子どもの『体験格差』実態調査 最終報告書 ダイジェスト版、2023年7月4日.
https://cfc.or.jp/wp-content/uploads/2023/07/cfc_taiken_report2307.pdf