植物シモバシラの写真展と講演会の報告

植物シモバシラの氷写真展を開催

武田 一夫

 写真展「植物シモバシラが魅せる氷の世界」(主催:(公財)札幌市公園緑化協会、共催:NPO法人雪氷ネットワーク)を、札幌・百合が原公園/緑のセンター 中温室で2024年10月16日~10月27日の11日間開催しました(写真1写真4)。期間中、約1500人の来場がありました。

 本来、関東から四国・九州の太平洋側地域に自生するシモバシラですが、同公園にも移植され、氷を析出した様子がSNSにアップされたことをきっかけに、写真展をすることになりました。写真は東京八王子市内の高尾山周辺で撮影した20点を展示しました。併せて、植物が氷を析出する仕組みや、北海道でも氷を析出する新たな植物、オヤマソバが発見されたことをパネルで紹介しました。その中で、シモバシラとオヤマソバの相違点(起源)と類似点(植物の生育にとって不利な環境)の比較から、植物がどのような理由で氷を析出するように進化したのかを推察しました。

 来場者からは、氷をつくる植物を初めて知った、氷の美しさに感動したなど、数多くの感想が寄せられました。花の写真を撮っている人からは、撮影について詳しく聞かれました。また、1990年代からアポイ岳周辺で植物の氷を撮影し、植物がオヤマソバであることを突き止めた人が、機関誌のコラムに経緯が書かれた記事をもって現われました。何年もオヤマソバの氷を撮影しようと追い求めている人もいました。今回写真展を開催し、来場者の方々の反応は、今後の活動のヒントとなり、私自身も大変勉強になりました。期間中、設営に携わり、会場で毎日説明をしてくださった理事の方々に感謝いたします。

写真1 会場の様子

写真2 開催に先立ち記念撮影
左から石井理事、石本理事、武田、油川理事長

  写真3 来場者の様子と植物のシモバシラ
     (手前)

写真4 写真をみる来場者

◆楽がき帳の記録

講演会「しもばしらの話」を開催

武田 一夫

 講演会「しもばしらの話」(主催:NPO法人 雪氷ネットワーク)を、2024年10月16日に札幌エルプラザで行いました。1部:凍土の科学と技術(植物から永久凍土まで)、2部:植物シモバシラが魅せる氷の世界、について話しました(写真1写真2)。

 1部:凍土の科学と技術は、数年前にある大学の学生に対して、霜柱から凍土の技術までを植物を含めて話して欲しいとの依頼がありました。過去の文献などを調べ直した結果、氷の析出(霜柱ができる現象)に関わる項目が多岐にわたり、断片的な話題を並べても、知識の紹介で終わると思いました。そこで、氷の析出が起こる原理を軸に、各分野の項目をグループ分けして、それぞれの繋がりをひとつの図にまとめることを思いつきました。いわば、氷の析出に関わる研究の地図をつくり、初めて話を聴く人にもどこで、どのような現象がみられるかを可視化するというものです。この図を「しもばしらの木」と名付けました(図1)。話す方も、多くの項目をひとつの図で示すことにより、グループ毎に分けた中から1~2つの事例を詳しく紹介することにより、限られた時間内に氷の析出の全体像を話せるメリットがあります。

 2部:植物シモバシラは、1部で話した植物グループの中からシソ科植物シモバシラを取り上げ、植物の概要、様々な形の氷をつくること、植物が氷を析出する仕組みについて話しました。また、学名:Keiskea japonica Miq.がついた経緯が、雌しべ・雄しべ・花粉などの名付け親、医者で植物学者の伊藤圭介(1803-1901)に由来し、オランダ商館医P.F.B.シーボルトとの師弟関係から生まれたこと。シモバシラの自生地分布が、日本列島誕生前にユーラシア大陸の東岸で形成された地層・四万十帯(中世代白亜紀の付加体/1~0.25億年前)と多くが重なることを紹介しました。シソ科植物のDNA解析の結果、いまでもKeiskea属の植物5種類が中国国内に分布しており、Keiskea japonica 1種類だけが大陸から分離した日本列島で独自の進化をとげて、日本固有植物になったことを話しました。シモバシラは、1億年も前から進化を続けながら氷の析出機能を獲得し、幾多の氷期・間氷期の気候変動を生き抜いてきました。そこに、植物の生存戦略のカギがあるのではないかと考えています。


写真1 講演会の様子(その1)


写真2 講演会の様子(その2)


図1 しもばしらの木

 

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